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「が丘」「台」が付く新興住宅地は要注意 古地名が物語る災害の歴史

【地名の謎と歴史】あぶない古地名は先人からのメッセージ

■地名の意味を知ることで災害の予測につながる!?

 120年前、日本には7万あまりの村や町があった。それが、明治22年の町村大合併、昭和28年からの町村合併促進法による合併、さらに平成の大合併を経て、何と4分の1まで減少。古い地名がなくなるだけでなく、響きがよいだけの陳腐な地名も多く誕生した。

 東京とて、決して例外ではない。特に低地の下町は、江戸が開府した400年以上前からしばしば隅田川の氾濫に悩まされてきた。武蔵野台地から下町へと流れる多くの川も数年、十数年ごとに洪水を繰り返し、神田川下流域一帯などは大湿地帯だったのだ。高低差のある地形のため、山、川、坂、谷、橋などが含まれる地名も少なくない。また、一見わからなくても「崩壊地形」や「浸食地形」を意味する語を含む名前が数多く残されている。

「災害が多い国だからこそ、伝えられてきた地名があります。今の人たちは、自分が住む土地の本来の名前も知らない人が多い。せめて現在住んでいる場所、これから暮らす予定の地域について、どんな意味を持つ地名なのか、少し興味を持ってはいかがでしょうか」

 先人の知恵を知ることで、ほんの少しでも災害の予測や対策につながるかもしれない。だからこそ、あらためて地名の意味を考えてみたい。

東京にもこんなにある!!災害リスクのある地名
高低差が多く、湿地帯が住宅地になった地域も!地名に「崩壊地形」「浸食地形」を示す語が潜む。

●荻窪(クボ/水害)杉並区 
善福寺川が淀んで蛇行し、周囲より低く窪んだ地域に、ススキに似たイネ科の多年草植物の荻が繁茂していたことに由来。水が溜まる窪地のため、川の氾濫が何度も起きている。

●落合(アイ/水害)新宿区
神田川と妙正寺川が落ち合って合流する所。上流が上落合で、下流が下落合。アイは、動詞アエ(零)から「こぼれ落ちる」の意も。崩崖などの「崩壊地形」を示す。水田稲作には最適地。

●小豆沢(アズ/崩壊・水害)板橋区
川が作った崩崖のことで、土砂災害の多い土地に使われる名前。全国各所に同じ地名がある。「小豆」は崩崖、傾斜地など崩壊地形、「沢」は西日本では湿地、東日本では谷、渓谷の意味。

●保木間(ホキ/崩壊)足立区
東京の最北端で、昔は海に面していた低湿地帯。「保木」は崖、山腹の険しい所の意。穴が空く、崩れるという意味のホグ(解)からの転と考えられる。「間」は場所を示す接尾語的に使われる。

●根岸(ネギシ/水害・崩壊)台東区
ネ(嶺)とキシ(岸、崖)で、台地と川や海が接する場所。水害や崩壊が起きやすい。上野の山のふもとに位置し、かつては海が入り組んでいた。根のように岸辺が続いていたという説もある。

●野毛(ノゲ/崩壊)世田谷区
ノゲはヌケ(抜)の転で、崩壊地形、浸食地形をいう。特に崖地や地すべり地を指すことが多い。多摩川の流域に位置し、昨年の台風19号では大きな浸水被害も出てしまった。

●狛江(コマ/水害)狛江市
1974年の台風16号で、多摩川が決壊したことは有名。コマは「独楽」に通じ、回転・曲流する川のこと。エも川、海、湖、堀などの一般的呼び名で、特に陸に入り込んでいる部分を指す。

●萩中(ハギ/水害)大田区
多摩川の河口に近く、かつては水田として利用されていた。ハギは「剥ぎ」に通じる。表面が剥がれ落ちるように斜面の崩落が盛んな土地、浸食されやすい湿地帯を示す。崩崖、崖の意味も。

■美しい地名には過去の災害が隠れている

 きれいな地名ほど、危険を知らせるサインの隠れ蓑になっているから、注意が必要だ。例えば、現在でも噴火活動が盛んな鹿児島県の桜島について、楠原さんから驚くべき話を伺った。

「桜島は、大正3年(1914)の噴火で大規模な火砕流が発生し、九州本土と地続きになりました。桜の名所でもないのに、なぜ桜島と呼ばれるようになったかというと、花が咲くのサクは、サケル(裂)と語源が同じだからです。火山山頂の噴火口が裂けて、溶岩と火山灰を吹き出すことから、人々に桜島と呼ばれるようになりました」

 桜は、サ(狭)とクラ(刳)で「崩壊地形」を示す地名でもある。同じように、梅はウメル(埋)に由来して埋立地に使われたり、椿は切り取るという意味のツバエルに由来して崩壊地形の地名になっていたりする。美しい花にはトゲがあるといわれるが、それは地名にも共通しているようだ。
 海に囲まれた日本列島で、自然の脅威の前に人間は無力かもしれない。だが、それぞれの地域で、住民たちはいつ襲ってくるかわからない災害と必死に向き合い、知恵を絞り、教訓を積み重ねてきた。昔から伝わる地名が温故知新の手がかりになるなら、これから起こりうる災害の被害を最小限にとどめるために、ぜひ役立たせたいものだ。

『47都道府県 地名の謎と歴史』より抜粋)

 

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  • 2021.03.16